眠りがもたらす影響は?
はじめに
睡眠学の第一人者、井上昌次郎氏は「眠りを科学する」のなかで以下のように述べています。
「眠りは、個体全体の適応行動。生体内外の環境変化(体温、ストレス、免疫、概日リズム、成長、生殖など)に関するさまざまな情報を統合してあらわれる。」
つまり、眠りは百人百様。その日の心理状態や肉体的な情報をすべてかえりみて、必要な処理をおこないます。
まるで、コンピュータがバグを修正するときに、いったん再起動するのに似ていますね。
人体に何か不具合が生じている場合、眠れないというのはバグを修正できない状態とも言えそうです。
子どもが病気やケガをしたときはよく眠ります。子どもを観ていると本当にわかりやすいし、学べることがたくさんあります。
基本的に動物は具合が悪くなったら寝る。そうすることで自然治癒力が働きやすい環境をととのえます。
「よく食べ、よく遊び、よく学んで、よく眠る」
人生を謳歌するために、昔から語り継がれる有名な格言です。
そのなかで、眠りだけは意識がない状態ですね。
スイッチOFFの状態です。
良いパフォーマンスを発揮するためには、積極的に休息することも大切です。
眠りはまだまだ未知の部分が多いですが、知れば知るほど興味が湧いてきます。
充実した眠りは、人生をより豊かにしてくれると確信しています。
眠りとは?
眠りは、莫大なエネルギーを消費する大脳をクールダウンさせ、いつも安定したパフォーマンスを発揮するために発生しました。
特にノンレム睡眠は、生物界最大の大脳を持つ人間にはとても大切です。
大脳が発達したからノンレム睡眠があらわれたとも言えます。
脳には大きく分けて、古い脳と新しい脳があります。
古い脳は脳幹や間脳で、新しい脳は大脳です。
前者は呼吸や体温調節、生殖反応など、生物としての基本的な機能をつかさどります。生命を維持する脳ですね。
後者は情緒やコミュニケーション、空間認識、運動能力などをつかさどります。人間関係や危機管理にかかわる脳です。
大脳をもたない生物は、レム睡眠だけしかありません。ノンレム睡眠がないのです。
つまり、ノンレム睡眠は新しい脳である大脳の眠りといえます。
ノンレム睡眠はこれまでどれくらい不眠が続いたかによって、質と量が決まるのです。
その性質は睡眠負債への対応を得意とします。
眠らない時間が長ければ長いほど、睡眠圧が高まり、短時間でぐっすり眠れます。
基本的には、入眠後3時間で良質なノンレム睡眠は完結しますよ。
その後もおよそ90分ごとにノンレム睡眠はおとずれますが、はじめのものより短時間で浅いものになります。
3時間しか眠らないことで有名なフランス革命家のナポレオンですが、もしあと1サイクル(90分)眠っていたら、もうちょっと長生きできたかもしれませんね。
3時間だと熟睡期間はカツカツですから。前後どちらかにもう90分余裕を持たせたい感じです。
眠りが苦手とするものは、睡眠を貯めておくこと。寝貯めはできません。
誰しも経験あると思いますが、寝過ぎた後を思い出してみるとわかります。
頭はボーッとして、体は重いし、やる気が出ないですよね?
パフォーマンスはダダ下がりです(笑)
眠りは単純に、不足分を補うのです。
眠らないとどうなる?
今から100年以上前のロシアで、犬を使った断眠実験をおこなったことがありました。
眠ろうとする犬に対して運動させて眠らせないようにする。すると、すべての犬が96〜120時間後には死亡しました。
眠らないでいると、大脳の神経細胞は傷ついたり、死んでしまいます。
これは人も同じです。3日間不眠で山に登り続けた人たちの脳神経細胞は、細胞同士のすき間を広げて神経伝達が弱まることがわかっています。
眠らないように意識して頑張っていても、それが長引くにつれて、本人が気づかないようなごく短いフラッシュ睡眠や瞬間的なマイクロ睡眠があらわれます。
眠らないでいると、脳神経細胞へのダメージが大きいのです。
そのため、大脳は何がなんでも眠ろうとします。
ちなみに、世界一の断眠人間はアメリカ人のランディー・ガードナーさん。1964年に264時間(11日間)というギネス記録を打ち立てました。ただ、記録挑戦中のガードナーさんには、妄想や幻覚が生じています。
現在では健康への配慮から、挑戦してもギネス記録には認められません。
眠れないのはなぜ?
眠りには2つの基本的な柱があります。
一つは、概日リズムです。
概日リズムとは、およそ24時間周期で波のように眠気が高まるときと弱まるときがあらわれるリズムのことです。
16時ごろに中波のピークがあらわれ、夜中の2時ごろに大波のピークがおとずれます。
特に大波の時間帯は、多くの人たちが眠りについている時間帯です。
この波に乗りそこねると寝不足必至です。
そして、さらにこの概日リズムのメインストリームのまわりには小波がちょこちょこ出現しています。これが90分ごとの睡眠サイクルです。
二つ目は、ホメオスタシス(恒常性維持機能)です。
ホメオスタシスは単純で、それまでの睡眠の過不足から判断して、その後の眠りが決まります。断眠時間が長いほど短時間に深く眠れるのはその働きによります。
わたしたちは、太古の昔から自然に合わせて寝起きしていました。
明るくなれば活動し、暗くなれば眠る。
しかし、現代ではそのようなリズムで生活するほうが難しいと感じます。
昼夜を問わず明るいし、パソコンやスマホは一人一台の時代。
仕事がら一日中明るいモニターを観て、ブルーライトを長時間浴びている人も多いはず。
また、時差のある遠くの国へも飛行機で簡単に行き来できるようになりました。
便利になった反面、生活が不規則になり生物時計の調節が難しくなっています。
朝起きられない代わりに夜も眠くならず、ぐっすり眠れない人や昼間でもボーっとする人たちが増えています。
現代では多くの人が不眠に悩んでいます。
1997年の調査では、日本人の成人のうち5人に1人が不眠症に悩んでいることがわかりました。
今はもっと増えているのではないでしょうか……。
ただ、不眠と言っても全く眠らないわけではなく、寝つきの悪さ、浅い睡眠のくり返し、早朝覚醒といったものが大半です。
本来なら眠っているはずの時間に眠れず、活動している時間に強い睡魔に襲われます。
これではまともな生活は送れませんよなのね。
不眠には精神的ストレスや内科的な疾患によって眠れなくなる身体的要因と、眠る環境が良くなかったり、標高の高いところに滞在したり、睡眠薬やアルコール摂取などによる外的要因があります。
もしあなたが不眠に悩んでいたら、身体的要因なのか外的要因なのか、一度ふり返ってみることをお勧めします。
そうすることで不眠解消に向けて対策も立てやすくなると思いますよ。
元ライブドア社長の堀江貴文さんは、眠るときは徹底して環境をととのえるそうです。ベッドや枕はもちろん、いつも昼ごろまで眠るため、完全遮光のカーテンや防音設備をしっかり施した部屋で休むようです。
眠りは美しさの秘訣(寝る子は育つ)
子どもはよく眠ります。ちょっとやそっとの刺激では起きません。
わたしが大きな地震の揺れを感じて目が覚めても、隣で寝ている子どもたちは気持ちよさげに寝息を立てていました(笑)
熟睡している間は成長ホルモンが分泌されます。このとき体中の細胞は点検・整備され、新しい細胞も増えていきます。
骨や筋肉が頑強になり長く伸びるときも熟睡しているときです。
寝る子が育つのは、熟睡中に分泌される成長ホルモンのおかげです。
これ以上身体的に成長することがない大人の場合でも、熟睡中は代謝を促進し細胞分裂をさかんにしています。
成長しきったわれわれ大人にとっても、回復や修復をうながすために熟睡は必要なのです。
徹夜明けや不規則な生活がつづいたあとは、お肌の調子が悪く、化粧の乗りも悪い。
そんな経験がある人もいるでしょう。
熟睡すると免疫も回復します。
メリハリのついた生活をして、しっかり眠れている人は細菌やウィルスなどにも対応できる強いカラダになります。
熟睡をうながす睡眠物質は解毒にかかわるものもあり、脳神経細胞を修復してくれます。
眠れる森の美女は、しっかり眠っているから美女なのです!
快眠を目指して
良い眠りを得るためには何を意識すればいいのでしょうか。
これまでの話の要点をまとめながら見ていきましょう。
①眠りには入眠しやすい時間帯があります。
概日リズムに合わせて眠りの波に乗りましょう。
②松果体は明るさを感知します。大脳が発達しているわたしたちは、目から入る明暗情報がスイッチになります。
松果体は外界が暗いとメラトニンを分泌し、明るいと分泌を止めます。
最近では、子どもが不眠症状で病院にかかるとメラトニンを処方してくれるそうです。
夜間、明るいモニターを観るのはほどほどに……。
松果体をいたわりましょうね。
③なんとなく寝るではなくて、積極的に睡眠環境をととのえ、熟睡しやすい自分だけの空間をつくります。
お気に入りグッズを使うのは心理的にも安心します。
スマホやパソコンを使ったあとに寝る場合は、ストレッチしたり瞑想したりすると寝つきがよくなります。
堀江さんほどではなくとも、睡眠環境をととのえましょう。
④眠りは、起きて活動しているときと表裏一体の関係にあります。日中の活動レベルが高いとメリハリが効いて、夜ぐっすり眠れます。
コロナの影響でデスクワークが多くなっていませんか?
散歩やストレッチなど負荷のかからない運動を取り入れることをオススメします。
メリハリのある生活をおくりましょう。
⑤スポーツした後やお風呂に入った後は、身体が熱くなっています。
その状態で横になってもなかなか寝付けませんよね。
火照った身体の粗熱をとってから就寝すると良いですよ。
体温が下がってきたタイミングで床に就きましょう。
眠りのレメディー
以下はわたしたちの眠りをサポートしてくれるレメディーです。
たくさんあり過ぎて紹介しきれないので、10個だけ取り上げてみました。
共通するのは神経が立っているところです。良い眠りには落ち着いてリラックスすることが大事です。
Coff.(コフィア/生のコーヒー豆)
精神の高揚、過剰な精神活動。過度の興奮による不調。色んな考えが次々に浮かぶ。
Iod.(アイオダム/ヨウ素)
興奮と過度の落ち着きのなさ。多弁、性急。忙しくしていると調子が良い。
Amth.(アメジスト/紫水晶)
神経緊張。脊柱神経の傷害と痛み。アドレナリン過剰分泌。
Carc.(カシノシン/乳がん)
敏感、多感。ロマンチスト。几帳面、過度の義務感。慢性的で長期の不眠。
Aven.(アベナサティーバ/オート麦)
身体的衰弱、神経の消耗と衰弱、性的衰え。慢性的な不眠。
Passi.(パッシフローラ/時計草)
精神不安で働きすぎの人の不眠症。神経過敏、興奮。痙攣。
Cham.(カモミラ/カモミール)
怒りや苛立ち、コーヒーの摂りすぎから悪化。眠いのに眠れない。抱っこされると機嫌が良くなる子ども。
Cina.(シーナ/メセンシナ)
怒りっぽい、不機嫌。触られる、優しくされる、見られることは大嫌い。子どもはうつ伏せでしか眠れない。
Kali-p.(ケーライフォス/リン酸カリウム)
極度の神経疲労のために自制がきかなくなる。過労、興奮、心配、苛立ち。
Mag-m.(マグミュア/塩化マグネシウム)
強い責任感からの不安や心配。特に夜不安が強くなる。躁鬱病。目覚めた直後の大きな疲労感。
いかがでしたでしょうか。
眠りは大脳に休息をあたえ、自然治癒力を高め、最高のパフォーマンスを引き出す要です。
メリハリのある生活で、活動と睡眠のバランスをととのえましょう。