ホメオパシーと手技療法で内なる治癒力の泉にアクセスする、北海道・札幌在住のお手当てホメオパス、藤山道子です。
妊娠出産について書くシリーズ。
今回は「陣痛をいかに素晴らしい体験にするか」がテーマです。
「鼻からスイカ」におどかされないで
「ものすごく痛い」。
どれぐらいかといえば、「鼻からスイカを出すぐらい」(!)。
出産の痛みはそのように表現されることが多く、〈想像を絶するレベルの苦しさ〉というイメージを抱く人が少なくないように感じます。実際、初産婦さんは「そんな痛みを自分は我慢できるのだろうか……?」と、心配な様子。
今、お産のできる病院やクリニックでは麻酔を使った無痛分娩、和痛分娩を取り入れるところが急速に増えていますが、選択肢が増える一方で、「麻酔ナシだとよっぽど痛いのだろうか」という印象をなおさら持ってしまう面もあるかもしれません。
でも、出産は痛いばかりではなく、それ以上に心地よさ、気持ちよさも伴う感動的な体験。そのような気持ちよさを味わうための仕組みが、女性の体には見事に備わっているのです。
痛い怖いと思ってその日を迎えるよりも、すばらしい体験ができるのだという気持ちで過ごすほうが妊娠期間だって楽しいはず。
出産に対してポジティブなイメージを持てるように、「気持ちのいい出産」を叶える体の巧みな仕組みを知り、味方につける方法を解説します。
出産時の痛みの正体とは
まず出産時の痛みについて正しく理解をしておきましょう。
「痛い」とひとことで言うものの、お産の痛みは、実際には2種類に分けられます。
- 子宮収縮による子宮の痛み
- 腟や外陰部・肛門周囲が赤ちゃんの頭によって押し広げられる時の痛み
「下腹部から腰にかけての痛み」として感じられるのは、主に子宮収縮の痛み。
ただ、1回の子宮収縮は40~50秒程度で終わり、その後必ず休み時間があります。
外陰部の痛みのほうは赤ちゃんが下に降りてくるに従って強まりますが、陣痛の初期にはあまり痛くありません。
2種類の痛みはどちらもお産の最初から最後まで痛いのではなく、痛くない時間もちゃんとあるということ。おさえておきたいですね。
次に、痛みを救済する自前のホルモンの働きに目を向けてみましょう。
母体を助けるホルモンのすばらしい働き
〈愛のホルモン〉オキシトシンで陣痛が起きる
時満ちて、陣痛が始まる。
そのとき、いかにしてスイッチが入るのかというメカニズムはいまだ十分には解明されていないそうですが、いくつかのホルモンが関与していることはわかっています。
中でも重要なのは下垂体から分泌されるオキシトシンです。
子宮は平滑筋という筋肉の束でできていて、オキシトシンはこの子宮の平滑筋を収縮させ、陣痛を進ませる働きをします。いわば、赤ちゃんをこの世に送り出すためのプッシュ役であり旗振り役。
ちなみに、そのオキシトシンを最初に出すのは赤ちゃん、つまり陣痛開始のスイッチを押すのは赤ちゃん自らであるとする研究もあるそうです!
オキシトシンは別名「愛のホルモン」と呼ばれ、抱っこやハグなどのスキンシップ、マッサージ、産後であれば赤ちゃんがおっぱいを飲む刺激などで分泌されます。
分泌されると、やすらぎや安心感、落ち着き、心地よい感覚が増します。ストレスが減る、恐怖や痛みが軽減されるという作用もあります。
つまり出産におけるオキシトシンは、「さあがんばれ、赤ちゃんを誕生させるために押し出せ、わっしょい!」と子宮平滑筋を鼓舞して陣痛を進めると同時に、
「怖くないよ、大丈夫だよ」と恐怖や痛みが軽くなるようお母さんをなだめることもしてくれているわけですね。
〈脳内麻薬〉β-エンドルフィンが痛みを強力に緩和
分娩中に大量に分泌されるホルモンでは、強力な鎮痛効果をもたらすβ-エンドルフィンの存在も忘れてはいけません。
もともと人の体には痛みを和らげる自前のシステム〈疼痛抑制系〉があります。
その〈疼痛抑制系〉を担う主役がβ-エンドルフィンなのですが、自然分娩ではこのβ-エンドルフィンが大量に血中に放出され、分娩中の痛みを大いに緩和してくれるのです。
しかも、β-エンドルフィンは脳内麻薬と呼ばれるように、幸福感や満足感、気分の高揚をもたらす作用も強く持ちます。
お産が気持ちよかったという人は、このβ-エンドルフィンの作用をうまく感じ取っていたといえそうです。
また、面白いことには健忘作用もあるので、出産中の痛みはほどよく忘れ、次もまた産もうと前向きに思えることにもつながります。
これまた、なんとうまくできているのでしょう!
ホルモンの恩恵をしっかり受け取るには
ただ、オキシトシンもβ-エンドルフィンもデリケートな性質があり、心細かったり、不安や恐怖がかきたてられたり、光や音が不快だったり、精神がかき乱される要素が多いときにはあまり分泌されません
自分にとって快適な環境、リラックスできる状況があってこそ十分に分泌され、その恩恵も最大限に受けられるのですね。
その意味では、「産む場所」はかなり重要であることがわかります。たとえば、
・アットホームでほっとできる雰囲気
・個室で一人放置されることがない
・体の欲求に従って動きたいように自由に動ける
・パートナーや家族も一緒にいられる
・好きな香りやリラックスのための道具を自由に使える
など、自分が心地よく感じるポイントにこだわって選ぶのは、出産自体を楽にするのにとても大事。
産む産院、クリニック等が決まってからも、かかわってくれる助産師さんなどには自分の希望を伝え、少しでも快適度を上げてその日に臨めるといいですね。
ふだん遠慮がちな人もこのときばかりは自分の心の声をよく聞いて、幸せな出産のために、ちょっと図々しくなっていいのではないかと思います。
イメージトレーニングは効果大!
リラックスにとても役立つ「イメージ」の力
産む場所という外的環境を選ぶとともに、ぜひとも取り組んで欲しいのが意識を使って内側のパワーを呼び覚ますことです。
イメージトレーニングはスポーツ選手がよく取り入れますが、病気の治療や、心身の安定的な調和を助けるため、陣痛のときにもたいへん有効です。
出産に向けてのイメージトレーニング(イメジェリーとも呼ばれる)は、
- くつろげる場所に座ったり、寝そべったりしながら、ゆったり深呼吸。
鼻から吸って、口から長くゆっくりふーっと吐く。 - 呼吸とともに、陣痛が始まって出産に至るまでのプロセスを心地よくイメージする
というのが基本です。
イメージは具体的あればあるほど良いとされ、たとえばこんな感じです。
◎子宮内側の壁全体で赤ちゃんをギュッとハグしているイメージ
(=陣痛による子宮収縮)
◎子宮を自分の好きな花に置き換えてイメージし、花びらがゆっくりと徐々に開いていくところを思い浮かべる (=子宮口の広がり)
◎赤ちゃんがプールのらせん状スライダーを降りてくるイメージ
(=回旋しながら骨盤を降りてくる赤ちゃん)
◎海の波に乗って、向こうのきれいな島に到着しては、赤ちゃんと一緒にほっとひと息つくイメージ (=陣痛の間欠期)
呼吸をしながらおこなうこのイメージトレーニング時間は1日10~20分程度の短い時間だけ、イメージするのはひとつふたつだけでもいいので、なるべく毎日継続するのがポイント。
日々意識的に赤ちゃんを思う時間をもつことで、出産のイメージをプラスに書き換えることができ、同時に母性を育てることにもつながります。
なお、心の安定と調和を図ることにより陣痛を軽く感じられるようにする「ソフロロジー式分娩法」では、イメージトレーニングが大きな柱となっています。日本では1987年にフランスから導入されて実践が始まり、イメージ誘導のための音源や解説本もあります。それを活用するのもいいかもしれません。
イメージトレーニング(イメジェリー)は短時間でもなるべく毎日おこなうことで、潜在意識にしっかり入る。
妊娠中期ごろに自分でCDを入手して、「ただ聞いた」だけ。それでも効果は実感しました。陣痛が来たときに「この波は長くは続かない。すぐに休息が来る。次の陣痛が来るまでのあいだは赤ちゃんが休めるようにさあ、息を吐いて、体をゆるめよう」というCDの誘導ボイスがすぐに耳によみがえり、体がそのように反応。痛みの間欠期にはしっかり休みました。結果、すこぶる安産で、想像したほど痛くなかったなという感想でした。
2人目は自宅出産ですが、このイメージングに加えて環境的にとてもリラックスできたことで、痛さよりも気持ちよさのほうが勝る出産になりました。
陣痛のときに使えるホメオパシーレメディ
もちろんホメオパシーも陣痛時のサポートとして、とても心強い存在です。よく使われるレメディから一部を以下に紹介します。
ただ、お産のときは自分でレメディを取り出す手間をかけていられないので(それどころではないはず!)、付き添うパートナーや家族に口に入れてもらったり、あらかじめレメディを水分補給用の水ボトルに溶かしておいて飲むなどがおすすめです。
●陣痛が始まって急に痛みに恐怖感がわく: Acon.アコナイト
●微弱陣痛: Gels.ジェルセミウム
●不完全な子宮収縮、途中で止まる陣痛: Caul.コーロファイラム
●腰やお尻のあたりがとても痛む: Kali-c.ケーライカーブ
●痛む箇所があちこちに移る: Cimic.シミシフーガ
●痛みで心細くなり涙が出てくる: Puls.ポースティーラ
●痛みでいらだち、怒りっぽくなる: Cham.カモミラ
●長引く陣痛でヘトヘトに疲れる: Kali-p.ケーライフォス
無痛分娩、和痛分娩をどう考える?
無痛分娩とは、麻酔を使って陣痛の痛みを和らげながら出産する方法。
日本でも年々件数が増えており、すべてのお産における無痛分娩の割合は2008年が2.6%だったのに対して、2020年は8.6%。以降も増加傾向です。
麻酔のやりかたは、背骨のところにある「硬膜外腔」という場所に細くて柔らかい管を入れ、そこから麻酔薬を注射する「硬膜外麻酔」を使用しておこなうのが一般的です。無痛といっても痛みがまったくなくなるのではなく、通常の3割程度に軽くするのを目安としており、そのため無痛ではなく「和痛分娩」という言葉を充てる医療機関も多くあります。
メリットとして挙げられているのは、痛みが減るほか、出産で体が消耗しないので産後の回復が早いことなど。
デメリットは、麻酔で陣痛が弱まることでお産が長引きやすいこと。そのため鉗子分娩や吸引分娩になる割合が高まる可能性もあること。ほか、麻酔の影響で尿意や下半身の感覚が鈍るなどがリスクとして並びます。
安全性が高いとはいえ、デメリットやリスクもあるのでしっかり検討して、そもそも自分はどんな出産をしたいのかをよく考えて選ぶことをおすすめします。
そして無痛・和痛分娩にしろ自然分娩にしろ、オキシトシンをはじめとする「内なるすばらしい仕組み」があってこそ叶うのは間違いがないこと。
命を生み出すためにあらかじめ備わっているこの神秘的な仕組みを信頼し、お任せするような気持ちで、ぜひご安産を!